イーサネット 【Ethernet】
伝送媒体や信号形式を定めた物理層の仕様と、媒体上でデータ列を伝送するためのデータリンク層(リンク層)の仕様で構成される。媒体には銅線を用いた撚り対線ケーブル(ツイストペアケーブル)や光ファイバーケーブルが用いられ、規格の世代によって通信速度が大きく異なる。リンク層の仕様は世代間で互換性があり、一台の機器が複数世代に対応したり、複数世代の機器が一つのネットワークに混在することができる。
イーサネットという名称は、狭義には最も初期に策定された通信速度10Mbps(メガビット毎秒)の諸規格(10BASE-Tなど)を指すが、現代では、その後策定された100Mbpsの「Fast Ethernet」(ファストイーサネット)、1Gbps(ギガビット毎秒)の「Gigabit Ethernet」(ギガビットイーサネット)、10Gbpsの「10Gigabit Ethernet」(10ギガビットイーサネット)などの後継規格の総称を意味するのが一般的である。
主に金属線ケーブルを用いた短距離(数十〜数百メートル以内)通信向けの仕様が企業や家庭などの有線LANの標準として広く普及したが、今世紀には光ファイバーを用いた遠距離(1km以上)向けの仕様が通信事業者などの広域回線網でも普及している。
接続形態

初期には一本の通信ケーブルに複数の端末を接続するバス型なども用いられたが、ほとんどの規格では各端末に接続されたケーブルをハブやネットワークスイッチなどの集線装置で相互に接続するスター型を採用している。
最も単純な構造の集線装置は「リピータハブ」(repeater hub)と呼ばれ、接続された端末から送られてきた信号をすべての端末に機械的に送り返す。このため、物理的にはスター型だが論理的な接続形態はバス型となっている。
現在一般的に使われるのは「ネットワークスイッチ」(network switch)あるいは「スイッチングハブ」(switching hub)と呼ばれる集線装置で、端末から送られてきたフレームの制御情報に記載された宛先を見て関係のあるポートにのみ転送するという処理を行う。不要な通信が流れないため通信効率が高い。
送受信単位
イーサネットではデータを「フレーム」(Ethernet frame)と呼ばれる単位で送受信する。先頭に宛先や送信元などを記したヘッダ、続いて送りたいデータ本体を格納した可変長のペイロード、末尾に4バイト(32ビット)の誤り訂正符号(FCS:Frame Check Sequence)となっている。
ヘッダは通信制御のための情報が記載された領域で、先頭から順に宛先MACアドレス(6バイト)、送信元MACアドレス(6バイト)、VLANタグ(4バイト/オプションのため省略可)、データ長(2バイト/古い規格では通信タイプ)となっている。
ペイロードは通常1500バイトまでと規定されており、これを超える長さのデータを送りたい場合は複数のフレームに分割して送信し、受信側で元のデータに組み立てる処理を行う。通信速度が高まるに連れ1500バイトでは非効率になってきたため、ギガビットイーサネット以降は数千バイトを一度に送れる「ジャンボフレーム」技術が用いられることが多い。
MACアドレス

イーサネットに対応した機器のネットワークインターフェース(コンピュータのLANカードなど)にはそれぞれ固有の「MACアドレス」(MAC address)と呼ばれる一意の識別番号が割り当てられており、これを宛先や送信元に指定して通信を行う。
48ビットの値で、物理的なインターフェース装置一つずつに固有のものが製造時に記録されて出荷される。複数のLANカードや接続口(ポート)を備えた機器や、複数の通信方式(イーサネットとWi-Fiなど)に対応した機器では、それぞれが異なるMACアドレスを持っている。
物理ネットワーク内での装置の識別のための番号であるため、通常は利用者が任意に変更することはできず、製造時に割り当てられたものを固定的に使用する。近年ではIPv6などの普及でネットワーク境界を超えて流通する機会が増え、個人の識別や追跡に利用される懸念が高まったことから、接続ごとにOSがランダムな値を生成して付け替える利用方式が広まっている。
CSMA/CD

同じ信号線を複数の主体が通信する際に生じる信号の衝突(コリジョン)に対処するため、「CSMA/CD」(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)と呼ばれる制御手法を採用したのが大きな特徴となっている。
たまたま複数の主体が同時に通信を開始してしまい信号が乱れると、これを検知して一旦両者とも送信を中止する。その後、両者が独立にランダムに決定したごく短い時間だけ待機し、送信を再開する。待機時間が短かった方が先行し、もう一方はその後に通信する。
この簡素な仕組みにより、中央で通信状態を監視・制御する機器を導入しなくても回線の使用権を調整することができる。低コストな装置でネットワークを敷設できるようになり、イーサネットがLANの標準として広く普及するきっかけとなった。
しかし、ネットワークの規模が大きくなり参加する端末の数が増えると信号の衝突が頻発し通信効率が急激に落ちる欠点があり、スイッチングハブによる信号の転送先の選別などの制御と組み合わせるのが一般的となっている。10Gigabit Ethernet規格では正式にCSMA/CDが仕様から削除された。
初期の規格
最初のイーサネット仕様は1980年に米ゼロックス(Xerox)社(当時)と米ディジタル・イクイップメント(DEC:Digital Equitment Corporation)社(当時)によって考案され、1983年にIEEE 802.3委員会によって標準化された。最も狭義には(あるいは歴史的な文書などでは)これをイーサネットと呼ぶ。
非シールド撚り対線(UTPケーブル)を用いる規格として「1BASE5」と「10BASE-T」の二つが、同軸ケーブルを用いる規格として「10BASE5」「10BASE2」「10BROAD36」の三つが、光ファイバーを用いる規格として「10BASE-F」(FL/FB/FP)が策定された。1BASE5は通信速度1Mbps、他は10Mbpsである。実際に普及したのはほぼ10BASE-Tのみだった。
この分野の用語
- LANポート
- LANケーブル
- 光ファイバーケーブル
- ネットワークセグメント
- リンクアグリゲーション
- VLAN
- スパニングツリー
- PoE
- ネットワークスイッチ
- 分類
- 3階層ネットワーク
- スパイン/リーフ型ネットワーク
- カスケード接続
- 転送方式
- バックプレッシャー
- スイッチング容量
- ZTP
- LLDP
- CDP
- IGMPスヌーピング
- ストームコントロール
- リンクフラップ
- MACアドレステーブル
- ポートセキュリティ
- 仮想シャーシ
- IRF
- Cisco Catalyst
- pps
- WOL
- EEE
- Ethernet OAM
- EtherCAT
他の辞典による解説 (外部サイト)
初期のEthernet規格
名称 | ケーブル | 距離 | 配線 | 機器数 | 規格 | |
---|---|---|---|---|---|---|
1BASE5 (StarLAN) | UTPカテゴリ3以上 | 250m | スター型 | IEEE 802.3e | ||
10BASE5 (Thick Ethernet) | 50Ω同軸ケーブル(直径9.5mm)*1 | 500m | バス型 | 100 | IEEE 802.3 | |
10BASE2 (Thin Ethernet) | 50Ω同軸ケーブル(直径5mm)*2 | 185m | バス型 | 30 | IEEE 802.3a | |
10BASE-T | UTPカテゴリ3以上 | 100m | スター型 | 1024 | IEEE 802.3i | |
10BASE-F | 10BASE-FL | マルチモード光ファイバ− | 2km | (リピータ-端末間接続) | IEEE 802.3j | |
10BASE-FB | (リピータ間接続) | |||||
10BASE-FP | 500m | スター型 | 33 | |||
10BROAD36 | 75Ω同軸ケーブル(CATV用) | 3.6km | バス型 | IEEE 802.3b |
*2 Thinケーブルとも呼ばれる。直径は正確には0.2インチ(5.08mm)。
Fast Ethernet規格
名称 | ケーブル | 距離 | 全二重 | 規格 | |
---|---|---|---|---|---|
100BASE-T | 100BASE-T2 | UTPカテゴリ3以上(4線) | 100m | 可 | IEEE 802.3y |
100BASE-T4 | UTPカテゴリ3以上(8線) | 不可 | IEEE 802.3u | ||
100BASE-TX | UTPカテゴリ5以上 | 可 | |||
100BASE-VG | UTPカテゴリ3以上(8線) | 不可 | - | ||
100VG-AnyLAN | IEEE 802.12 | ||||
100BASE-FX | マルチモード光ファイバー(2線) | 2km | 可 | IEEE 802.3u | |
100BASE-SX | 550m | - | |||
100BASE-BX10 | シングルモード光ファイバー(1線) | 40km | |||
100BASE-LX10 | シングルモード光ファイバー(2線) | 10km |
Gigabit Ethernet規格
名称 | ケーブル | 波長 | 距離 | 規格 | |
---|---|---|---|---|---|
1000BASE-T | UTPカテゴリ5以上 | - | 100m | IEEE 802.3ab | |
1000BASE-TX | UTPカテゴリ6以上 | - | - | ||
1000BASE-X | 1000BASE-CX | 2芯平衡STP | - | 25m | IEEE 802.3z |
1000BASE-SX | マルチモード光ファイバー | 850nm | 550m | ||
1000BASE-LX | 1350nm | 550m | |||
シングルモード光ファイバー (2芯) | 5km | ||||
1000BASE-LH | 50km | - | |||
1000BASE-LHA | 70km | - | |||
1000BASE-LHB | 150km | - | |||
1000BASE-ZX | 1550nm | 70km | - | ||
1000BASE-EX | 1310nm | 40km | - | ||
1000BASE-LX10 | 10km | IEEE 802.3ah | |||
1000BASE-BX10 | シングルモード光ファイバー (1芯) | 上り1310nm 下り1490nm | |||
1000BASE-PX10 | |||||
1000BASE-PX20 | 20km | ||||
1000BASE-KX | 電子基板上の配線 | - | 1m | IEEE 802.3ap |
* 1000BASE-Xをすべての光ファイバー系規格を含む総称とする場合もある。